第5話 インフルエンザ菌とヒブワクチン
インフルエンザとインフルエンザ菌はちがいます。
インフルエンザは「かぜ症候群」のひとつの病型で、主としてインフルエンザウイルス感染によって起こり発熱などの全身症状が強いのが特徴的です。これに対してインフルエンザ菌はウイルスではなく細菌であり、小児の髄膜炎や大人の気管支炎や肺炎などの細菌感染症の原因として重要です。
インフルエンザ菌(ヘモフィルス・インフルエンザ)はヘモフィルス属のグラム陰性小桿菌で1892年のインフルエンザ流行時にその原因菌として分離されたことからインフルエンザ菌として命名されましたが、ウイルスではなく、れっきとした細菌なのです。インフルエンザ菌には莢膜(きょうまく)を有するものと欠くものがあります。莢膜を有する菌は莢膜多糖類の抗原性によってa,b,c,d,e,f,e’の7種の血清型に分類されます。
インフルエンザ菌の病原性は、この莢膜多糖類が主であると考えられます。莢膜を有する菌は毒力が強く鼻咽頭の粘膜上皮を貫通し直接血管内に侵入します。一方、莢膜を欠く菌は毒力が弱く血流に入ることなく気道の粘膜上皮に感染します。したがって莢膜を有する菌は小児の髄膜炎、菌血症、喉頭蓋炎などの重症感染症の起炎菌として重要です。なかでも血清型b型は最も毒性が強い菌です。
これに対して莢膜を欠く菌は中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎や肺炎など呼吸器感染症の主な原因菌です。
大変紛らわしいのですがB型インフルエンザウイルス(いわゆるインフルエンザのB型)とはちがいます。繰り返しますが、ウイルスではなく細菌です。
インフルエンザb型菌は生後6カ月から2歳までの小児の化膿性髄膜炎の最も主要な起炎菌です。b型菌は鼻粘膜上皮を穿通し、リンパ流や血流を介して髄膜に波及します。急激に発症し頭痛、項部硬直(首が前に曲げられない程にガチガチに硬くなる)、昏睡が出現し治療しなければ死亡します。喉頭蓋炎や蜂窩織炎もb型菌により起こり小児に多く、鼻咽頭に定着した菌が周囲の軟部組織に波及します。最初は咽頭痛が出現し急速に喘鳴や呼吸困難、顔面、頚部、頬部の腫れや発熱が出現します。
通称ヒブワクチン(Hibワクチンやアクトヒブ)とよばれていますが、髄膜炎や喉頭蓋炎など小児の致死的な重症感染症の起炎菌であるb型インフルエンザ菌の莢膜多糖類を抗原とするワクチンです。わが国では2008年12月から任意接種可能となり、2013年4月から 予防接種法による定期接種の対象となりました。生後2カ月以降7カ月未満で初回免疫を開始することが望ましく、初回免疫は3回、4〜8週間の間隔で0.5mlを皮下に注射します。追加免疫として初回免疫終了後1年間の間隔をおいて同様に1回注射します。
参考文献 市川洋一郎:注目すべき感染症、ヘモフィルス・インフルエンザ桿菌感染症:βラクタマーゼとの関係.救急医学、19(1)1995
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