第2話 肺炎は老人の友
肺炎は免疫力が自然に低下した高齢者に多く発症し老人をそう苦しませることなく、安らかな死へと導いてくれるという意味の外国人医師の名言です。
細菌、マイコプラズマやウイルスなどの病原体が主に気管支を通じて肺に感染し、酸素と炭酸ガスのガス交換をする肺胞に炎症をおこした状態です。世界で最も多い死亡原因のひとつでわが国でも死亡原因の第4位を占めます。抗菌薬等治療の進歩で治る例が増えましたが、それでも小児や高齢者、重い基礎疾患をもつ人では、命にかかわる病気です。
寒気(悪寒)、発熱、咳、痰、胸痛、食欲が無い、倦怠感(体がきつい)などであり特異的な症状はありません。ひどくなると呼吸困難(呼吸が苦しい)やチアノーゼ(唇の色が紫色になる)がでることがあります。咳や痰を伴って発熱が続く時には肺炎を疑う必要があります。乳児や高齢者では呼吸器症状や発熱が無く単に元気が無いだけのこともあります。
様々な微生物(細菌、マイコプラズマ、クラミジア、ウイルス、真菌など)が肺に感染することによっておこります。われわれの生活環境には無数の病原微生物が存在します。人は呼吸を通じて肺内に多くの微生物を吸いこんでいます。さらに口腔内にも多くの微生物が常在細菌叢として存在しており、それを気道内への吸引することも多いのです。しかし、そう簡単には肺炎にはなりません。それは健常な人には咳反射、粘液繊毛輸送、肺のマクロファージ・リンパ球、局所粘膜抗体(IgA抗体)などの物理的・免疫学的な感染防御機構が備わっているからです。肺炎は、肺炎をおこす病原微生物だけではなく、肺炎になる側(人)にも問題があるのです(病原体宿主関係)。
腹部手術後等で寝たきりの人や意識が無い人では咳反射が損なわれ、肺炎とくに誤嚥性肺炎になりやすいことがわかっています。その他、肺炎にかかりやすい人として大酒家(アルコール依存症)、喫煙者、糖尿病、心不全、慢性気管支肺疾患、リウマチ・膠原病などでステロイドや免疫抑制薬の投与を受けている人などがあげられます。大酒家におこる肺炎桿菌性肺炎(クレブジェラ肺炎)は有名です。
肺炎がおこる環境や患者さんの状態によって肺炎をおこす病原微生物を推測することができます。肺炎が健康な人におこったのか、基礎疾患があり免疫力が低下している人におこったのかが原因微生物の推定に重要で、肺炎の重症度とともに治療法(入院治療が必要かどうか)にも関係してくるのです
市中肺炎:健常者に起こる肺炎のことです。肺炎球菌、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジア、肺炎桿菌など病原性の強い菌が主な病原微生物(肺炎の原因)です。
院内肺炎:白血病などの悪性血液疾患やがん等で入院中に発生する肺炎です。耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、腸球菌や真菌(かび菌)など本来は病原性は弱いのですが抗菌薬が効かない菌が原因になります。
介護関連肺炎:以前、高齢者肺炎や老人性肺炎といっていたものとほぼ同様で、介護施設などに入所や通所している人に起こる肺炎です。
胸部を中心とする一般的な診察に加えて血液検査、胸部X線、CTなどで総合的に重症度を診断し入院が必要か否かを診断します。また痰の検査などで病原微生物の原因診断をします。
7歳、男児、右上葉と左下葉の肺炎
肺炎がおこった環境(市中肺炎か院内肺炎か)や肺炎の重症度等などに応じて外来治療(主に抗菌薬の内服)か、入院治療(主に抗菌薬の注射)を選択します。いずれの場合も安静、水分・電解質補給は必須です。
慢性呼吸器疾患など基礎疾患(持病)がある人はそれをコントロールしておくことが必要です。禁煙、節酒、口腔ケアもとても大切です。肺炎球菌性肺炎やインフルエンザウイルス性肺炎はワクチンによりある程度の予防ができます。これらのワクチンは一部に公費助成があります。水痘ワクチンも水痘性肺炎(水ぼうそうウイルスによる肺炎)の予防効果があります。2014年から一部公費助成が始まった肺炎球菌ワクチンはすべての肺炎を予防するものではありません。
高齢者や免疫不全の人に発生した肺炎は、多くの場合、原因微生物が、強い薬剤耐性(薬が効かない)があり難治性です。がむしゃらに強い抗菌薬をいくつか組み合わせて投与する様な治療が行われることがありますが、効果が乏しいばかりか重篤な副作用で死期を早めることすらあります。その患者さんの一般状態を良くするようなサポーティブな対症的治療も必要です。「肺炎は老人の友である」という先人の言葉にはそういう意味が含まれていると私は思っています。
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