第4話 非結核性抗酸菌症
「結核菌」、「ライ菌」以外の坑酸菌を非結核性抗酸菌と総称します。 非結核性抗酸菌(non-tuberculous mycobacteria:NTM)は土壌、塵埃、水(河川、風呂水、水道水など)の自然環境下に広く存在します。したがってほとんどの人が経口的にあるいは吸入することによって体内に取り込んでいるのですが、感染性が弱いために実際、病気になることはほとんどないのです。また人から人へうつる(感染する)ことはないとされます。以前は非定型抗酸菌と呼ばれていましたが2003年に非結核性抗酸菌に統一されました。その症状は結核とよく似ていて自覚症状やX線所見から結核と鑑別することはできません。非結核性抗酸菌には多くの菌腫がありますが、およそ80%以上がMAC菌(アビウム・イントラセルラーレ複合菌)で5%程度がカンサシアイ菌です。
非結核性抗酸菌(NTM)による感染症はほとんどが肺感染症です。病原性が弱いため結核後遺症や気管支拡張症などで肺の局所の感染防御機構が低下した人やAIDSなど免疫不全患者さんに2次的に感染する病気(日和見感染症)とされてきました。しかし、最近の研究によれば、比較的健康な特に中高年の女性に1次的に感染する非結核性抗酸菌症も増加していることが報告されています。
2000年代以降、わが国では急速に増加し最近の罹患率(2014年)は人口10万対14.7と結核を上回る程になってきています。この罹患率は全国的にみれば地域差があります。東北地方が最も多く、関西が低く、九州は全国平均です。
慢性の咳、痰、血痰、やせ、倦怠感などです。無症状で健診にて見つかる例も珍しくありません。結節性陰影、均等陰影、空洞陰影、気管支拡張症陰影など結核に極めて似た陰影を示します。なかでも胸膜近くの薄い壁でできた空洞(胸膜直下薄壁空洞陰影)は特徴的といわれます。通常のX線写真だけではなくHRCT(高分解能CT)が診断に有用とされます。写真は76歳、女性の胸部X線および肺CT像です。両側肺に複数の空洞を含む多彩な病変がみられ結核と極めて良く似ています。結核は比較的急速に病変が悪化してゆくのに対してNTMではこの状態になるのには十数年から数十年の経過を要することが多いようです。
診断はこのような画像所見に加えて喀痰検体の培養陽性やPCR法などの細菌学的診断が必要です。最近ではNTM症の多くを占める肺MAC症では血液中の坑MAC抗体を検査することもできます。
76歳、女性、肺MAC症:血痰、発熱、咳、痰を繰り返す
両肺上肺野を中心に大小の空洞、結節陰影、浸潤陰影が散在性にみられる
非結核性抗酸菌症患者の]線写真とCT画像
結核と異なり病原性は弱く人から人への感染性はないとされていますが、その反面、多くの抗菌薬に自然耐性を有しており薬が効きにくいのが特徴です。この点で緑膿菌、MRSAなどの耐性ブドウ球菌、セラチア、真菌(かび)などの日和見感染菌に似ています。
抗結核薬(RFP、EB、INH,SMなど)とCAM(クラリスロマイシン)を組み合わせて投与しますが、NTMの多くを占める肺MAC症の多くは治療抵抗性です。一方で排菌や咳、痰などの症状や胸部X線の異常陰影は持続するものの十数年から数十年の経過でほとんど悪化しない例も珍しくありません。したがって抗菌薬をあえて投与せず、漢方薬などで全身の免疫力を上げる治療や去痰薬などで局所の抵抗性を増す治療など対症的治療のみで経過をみる場合もあります。
この解説を書くにあたって「抗酸菌感染症の診断と治療−結核および類似疾患の鑑別と治療(大泉耕太郎編)」、独立行政法人 国立病院機構 大牟田病院のHP(非結核性抗酸菌症NTM)と「非結核性抗酸菌症−診療のポイント−(倉島 篤行監修)」を参考にしました。
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